2007.04.17

おそらく唯一の評価損の専門書

241b_1私の都合で東京高裁判決をなかなか紹介できない罪滅ぼしのつもりで、1冊の文献を紹介することにしよう。

先日、保険毎日新聞社から出版されている、「裁判例、学説にみる交通事故・物的損害・評価損(格落ち)」(事故情報調査会 海道野守 著)を手に入れてみた。かねてから、この本の存在は知っていたのだが、いつも利用している東京都立図書館にも東大図書館にも収蔵されておらず、Amazonでも買えなかったので、国会図書館まで出向くのも何だかなぁと思って参照していなかったのだが、掲示板で読者の方からの紹介を受けたのを機に、思い切って直接出版元から購入したのである。

いやぁ、少し高いが(2800円+税)、本気で評価損について保険会社と争おうと思う人は、ぜひ買ってほしい。私も、もう少し早く読めばよかった。

この本には、評価損をめぐる判例の統計情報や、学説の紹介だけでなく、個別の裁判例の判決文や判決要旨もたっぷり掲載されている。ちなみに統計情報によると、評価損を争った昭和60年から平成12年の170件の判決のうち、評価損が認容されたのは115件だったそうだ。

ただし、この本で紹介されているのは、先日このブログでも取り上げた大阪高裁の判例を除いて、すべて地裁の判例。やはり、今回の私の東京高裁の判決は貴重なはず…かな?

今ならAmazonでも買えるみたいです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.03.24

大阪高裁の判例

控訴審対策で図書館に出向いた際に、あらためて評価損についてCD-ROMで検索をしてみると、実は大阪高裁での判例が存在していたことが判明したので(大阪高判平5.4.15)、その内容を紹介してみることにする。

結論から言うと、この高裁判決は、評価損を認めなかった。


1. 本件においては、修理完了後も自動車の性能、外観等が事故前よりも劣ったまま元に戻らないことや、修理直後は従前通りの使用が可能であるとしても時の経過とともに使用上の不便および使用期間の短縮などの機能の低下が現れやすくなっていることを認めるに足りる証拠はない。

2. 証拠によれば、被害車両について日本自動車査定協会は平成3年4月24日を査定日として本件事故のための減価額が393,200円であることを証明していることが認められる。

3. しかし、証人の証言によれば、本件事故前に一審原告が被害車両を買い替える計画はなかったことが認められ、

4. また、近い将来に被害車両を転売する予定であること、その他、減価を現実の存在として評価するのを相当とする事情についての主張、立証はないから、このような減価があるとしても、それは潜在的・抽象的な価格の減少にとどまり、一審原告に同額の現実の損害が発生したものとは認め難い。

5. したがって、一審原告の評価損の主張は、採用することができない。

1は「技術上の評価損」(※「技術上の評価損」と「取引上の評価損」については以前の記事を参照)しか認めないので、それを立証しろ、ということだし、2では査定協会の減価額証明書の証拠価値をいちおう認めながらも、3、4においては、現実的に買い替える予定がないので、損害は現実的なものでないとして、結論として評価損を否認している。

もし私のケースでこの基準を適用すると、「技術上の評価損」についても買い替えの予定についても、まったく主張も立証もしていないので、完全にアウトである。

こういう例を見ると、たとえ私のケースにおいて東京高裁で評価損認容判決をもらったとしても、たいした意味はないのかなぁ、と思ってしまう。もちろん、それぞれの裁判官は独立した存在であり、高裁判決に法的な拘束力はないことは知っているのだが、高裁で逆転判決が出ることを恐れて下級審が一気に認容に向かうという現実的な効果があるのかな、と期待していたのだけども…

というのも、この大阪高裁での判決が出て以降も、管轄内の地裁・簡裁で、「取引上の評価損」について、「買い替えの予定」がない場合にも認める判決は多発しているのである。

まぁ、そうは言っても、高裁判決は、多くの地裁・簡裁判決よりもインパクトがあることは確かだろうから、その効果に少しは期待してもいいかな、と思う。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006.06.20

必読!赤い本2002年版 その2

前回の続き。

景浦氏は、中古車販売業者に表示義務のある修復歴について解説した後に、こう続けている。

現実には、このような修復歴の程度にいたらない事故車の下取価格が下がるのは避けられないと思いますので、評価損を中古車販売業者に表示義務のある修復がなされた場合に限るのは妥当ではありません。

ただ、事故があればいかなる場合にも評価損が認められるというわけではないとして、

初度登録からの期間、走行距離、損傷の部位(車両の機能や外観に顕在的又は潜在的な損傷が認められるか)、車種(人気、購入時の価格、中古車市場での通常価格)等を念頭に、評価損が発生するか否かを検討すべきです。

と、検討すべき要件を挙げている。また、判例の動向として、

外国車又は国産人気車種:初度登録から5年(走行距離で6万Km程度)以下
国産車:初度登録から3年(走行距離で4万Km程度)以下

であることを、評価損が認められる目安として紹介している。

なお、私のケースは、初度登録から10ヶ月、走行距離4600Kmの国産車であり、事故により、中古車販売業者に表示義務のある修復歴がついてしまったのであるから(修理内容については次回の準備書面をご覧いただきたい)、金額はともかくとして、前回紹介した田中心裁判官であっても、景浦裁判官であっても、評価損自体を認めないなんてことはあり得ないであろう。

ということで、次回以降、準備書面の内容と弁論準備手続の様子を紹介することにしよう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.06.19

必読!赤い本2002年版 その1

「赤い本」2002年版では、景浦直人裁判官が、評価損をめぐる問題点として、これまでの判例や学説を整理したうえで、自説を披露している。

このなかで、景浦氏は、肯定説と否定説の問題点を検討したうえで、下記の中村心裁判官の意見を紹介している。

取引上の評価損を認めるが、評価損が肯定されるのは、骨格部分、エンジンなど走行性能、安全性能に関わる部分に事故の影響が及んでいる可能性がある場合に限られる。

そして、景浦裁判官いわく、この見解にのっとると、機能上の損傷がある場合のみならず、中古車販売業者に表示義務のある修復歴がある場合にも評価損が認められると考えることができる、とのことである。

ここでいう「中古車販売業者に表示義務のある修復歴」とは、自動車公正競争規約および同施行規則(PDF)で定められている、以下の9点になる。

1. フレーム(サイドメンバー)
2. クロスメンバー
3. フロントインサイドパネル
4. ピラー(フロント、センター及びリヤ)
5. ダッシュパネル
6. ルーフパネル
7. フロアパネル
8. トランクフロアパネル
9. ラジエータコアサポートの交換(ボンネット車のみ)

専門用語ばかりで、何が何だかわからない方は、こちらを参照いただきたい。

そして、景浦氏は、これではまだ足りない、と言うのであるが、それはまた次回。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.06.18

評価損を認めなかった判例

「赤い本」掲載判例19件のうち、評価損が認められなかった2件を紹介しよう。

損傷部分がバンパーやフロントフェンダー等で、車両の主要な骨格部分が含まれておらず、損傷部分の部品のほとんどを交換した被害車について、性能・外観の低下や中古車としての交換価値の低下が残存するとは容易に考えられないとして格落損害を否定した(名古屋地判平5.10.8)。
初度登録から2年以上経過し、走行距離5万3000Kmを超える国産高級車につき、修理部分及び程度(左側ドアミラー下の部分等の相当程度の損傷)を勘案すると、評価損が発生したと認めるのは相当でないとした(東京地判平成12.11.28)。

もちろん判例が確立しているわけではないのだが、この2例を読む限りでは、少なくとも損傷の部位や程度について、きっちり主張したほうがよさそうだ。私の訴状では、賠償額について単に査定協会の証明書を援用しているだけで、損傷については「著しい」としか言っていないので、これでは足りない。その点については、被告も準備書面で親切に指摘してくれたけどね(笑) そこを踏まえて、準備書面にまとめることにした。

そして、さらに調べてみたところ、「赤い本」2002年版では、「評価損をめぐる問題点」として、現役の裁判官が10ページを割いて判例や学説の動向について、詳しく解説をしているのを発見。評価損を主張している人は必読!の資料である。その内容については、また次回。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.06.17

赤い本

来週、弁論準備手続で裁判所に出向かないといけないので、準備書面をまとめようと思い、広尾の東京都立中央図書館まで行ってきた。

今日の収穫は「赤い本」。「赤い本」というのは通称で、正式名称は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」だそうだ。日弁連交通事故相談センター東京支部から出版されている。定価2800円なのだが、一般向けに市販はされていないようなので、アマゾンでポチっと買うわけにもいかず、図書館まで出向くことになった。

2006年版の「赤い本」における評価損についての記載はわずか2ページほどなのだが、重要な判例の要旨が19件掲載されている。そして、そのセクションの冒頭には太字で、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められる」との記述。

以前にも書いたように、「修理しても外観や機能に欠陥を生じ」というのが「技術上の評価損」で、「事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合」というのが「取引上の評価損」のこと。技術上の評価損しか認められていないとする、あいおい損保の欺瞞がまたまた明らかになってしまった(笑)

もちろん、どんな場合に「事故歴により商品価値の下落が見込まれる」のかという検討は必要なのだが、取引上の評価損が一切認められていないわけではないのは、これまでも書いてきたとおりである。

ちなみに掲載の19件の判例のうち、17件が評価損を認めた判例。認められなかった2件については、次回。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.04.20

別冊判例タイムズ その3

2004年版の記載は、前回紹介した1997年とほぼ同じなのだが、次の一文が最後に追加されている。

初年度登録からの期間(例えば2年以内程度)、走行距離、修理の程度を考慮し、修理費を基準に、30パーセント程度を上限として評価損として認めた例がある。

評価損を認めたケースを、具体的な算出基準と合わせて、積極的に紹介したのは大きな変化だと思う。

さて、1991年版以降、このように記載内容が変化していることを、あいおい損保が知らないわけはないだろう。「とある保険会社社員」のHPには、

この別冊判例タイムズは「保険会社の実務でほとんど絶対的な基準として用いられる、いわば『査定担当者のバイブル』とも言うべき参考書です。これを持っていない査定担当者は、はっきり言ってモグリです。
とまで書かれている。

この「バイブル」が1991年版以降2回も改訂されているのにもかかわらず、あえて15年も前の1991年版の記載を引用したのは、きわめて意図的だとしか思えない。以前、「嘘」ではないにしても、ミスリーディングだと言ったのは、このことである。

これについては、今回の訴訟とは別に、あいおい損保に対し、何らかのアクションを検討したいと考えている。

| | コメント (4) | トラックバック (0)

2006.04.19

別冊判例タイムズ その2

まずは1997年版の記述から引用する。

自動車が事故によって破損し、修理しても技術上の限界等から回復できない顕在的又は潜在的な欠陥が残存した場合(例えば、外観が損なわれた場合、耐用年数が低下した場合など)には、修理のみによっては損害が回復したとはいえないので、修理費のほかに、減価分を評価損として認められる場合がある(いわゆる技術上の評価損)。

また、中古車市場では、事故歴があるという理由で、いわゆる事故落ち損として売買価格が下落する場合がある(取引上の評価損)。いわゆる事故落ち損は、潜在的な欠陥が残っていることに対する市場の評価であると解して、評価損としての損害を肯定する見解も少なくない(東京高判平成8年9月26日 公刊物未掲載)。しかし、この見解に対しては、修理がされた以上客観的な価額の下落は肯定すべきでないこと、事故後も当該車両を使用し続ける場合にはこの損害はなんら現実化していないこと、買替えを予定しない場合にも買替えを認めたのと同一の利益を被害者に与えることなどを理由に、事故前から自動車を買い替える予定があり下取り価格の合意ができていたような特別な事情がある場合を除いて、事故落ち損を認めないという見解も有力である。

事故落ち損を求める場合は、事故の内容、程度及び予想される交換価値の下落を主張する必要がある。交換価値の低下については、財団法人自動車査定協会の事故減価額証明書が証拠として提出されている場合は、これをも参考にして、当該事故による事故車の損傷部位及び状態に応じて算定することになる。

1991年版と比べて記述内容が大きく変化している。評価損は認めないという断定的な結論ではなくなっていることは明らかだろう。

2004年版については、次回。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2006.04.18

別冊判例タイムズ その1

あいおい損保からの回答書には、「参考」として「『民事交通訴訟における過失相殺の認定基準』 東京地方裁判所民事交通訴訟研究会編」から抜粋されたと思われる文章が紹介されている。

これを読むと、あいおい損保が言うように、評価損は一般的に認められていないのだと理解するしかないようにも思える。

しかし、これを額面通りに受け入れるわけにはいかない私は、一次資料を確認するために、図書館に出向いた。所蔵誌を検索してみたところ、判例タイムズ別冊「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」が、これにあたるようだ。あいおい損保の回答書には「率」が抜けているので、探すのに少しだけ手間どってしまった。出典は正しく明記してもらいたいものである。

さて、検索結果の画面には同じ題名の本が4冊が表示された。

■「別冊判例タイムズ1号」(1975年)
■「別冊判例タイムズNo.1」(1991年・全訂版)
■「別冊判例タイムズNo.15」(1997年・全訂3版)
■「別冊判例タイムズNo.16」(2004年・全訂4版)

どうやら、1975年の初回発刊以来、順次改訂されているようなのである。後で確かめると、判例タイムズ社のHPにも改訂の経緯が紹介されている。

もちろん私は、全ての号の記述をチェックしてみた。

1975年版には、評価損についての記載はなかったが、1991年版には評価損についての見解が取り上げられており、あいおい損保が引用した部分をそのまま見つけることができた。確かにそのとおり掲載されている。

続いて、1997年版および2004年版の記述を確認したところ…

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2006.04.17

保険会社の欺瞞

実は、評価損を認めるべきかどうかについて、上級審で確立した判例は存在しない。評価損を認めた判例もあれば、認めなかった判例もある。裁判所の判断自体が揺れているのである。

なので、あいおい損保が、

評価損についての裁判の判断は、修理後において、
  (1)新車購入直後の車
  (2)機能的障害が残存した場合
  (3)外観が著しく損なわれた場合
に限定して認定をしており、一般的には評価損を認められていません。
と断定するのは、明らかに間違っている。

実際に、あいおい損保が主張する、評価損が認められるべき条件に反して、評価損が認められた判例を見てみよう。

(1)新車購入直後の車
「直後」というのは、どれだけの期間を言っているのか不明だが、実際には、9年前に購入した車についても、修理費の約20%を評価損として認めるという判決が存在している。(横浜地裁平成9年12月22日判決)

(2)機能的障害が残存した場合、(3)外観が著しく損なわれた場合
これについては、以下のような判例がある。説明不要だろう。

格落ち損については完全な修理が完了し、外観や機能には一切の欠陥は残存しておらず、仮に、事故歴によって自動車の商品価値の下落が見込まれるにしても修繕費の1〜3割程度認めるのが判例の見解である。(長野地裁諏訪支部平成12年11月14日判決)
事故に遭った車両は、十分な修理がされた場合であっても、事故がなかった場合と比べて評価(時価)が低下することは避けられない。(札幌地裁平成11年1月28日判決)
修理により原状回復がなされ、機能、外観ともに事故前の状態に復したものと認められる。しかし、事故歴ないし修理歴のあることにより商品価値の下落が見込まれることは否定できず、右評価損としては修理費の3割をもって相当と考える。(横浜地裁平成7年7月31日判決)

もちろん、前述のように、評価損を認めなかった判例も存在する。それはそれで尊重されるべきだろうと思う。

ここで私が問題にしたいのは、あいおい損保が、自分に都合のよい判例に示された要件だけを抜粋して、あたかもそれが全ての裁判に適用されるべき原理原則のように書くことにより、私に対して、あきらめろ、と言っていることである。

論理も倫理もないやり口であり、強い憤りを感じる。

これを上回る、さらに汚いやり方については、次回。

※ここで紹介した判例は「交通事故 保険請求センター」を参考にさせていただいた。

| | コメント (2) | トラックバック (0)