2005.07.02

室内クリーニング特約に関する判例

貸主が室内クリーニング費用について、「実印押したでしょ!」って言っているのは、契約書類の下記の条項を根拠にしていると思われる。

【賃貸借契約書第11条】
乙は(中略)次に掲げるものの費用を負担するものとする。
(3)本契約終了・明渡しの際の室内清掃費用。

【貸主、借主の修理・取り替え負担範囲(に関する別書類)】
借主の負担で行う修理・取替え等
1.別表における修理・取替え項目(←これがまたくせ者)
2.室内全般クリーニング

これをもとに、「借主負担でしょ!」と言って、クリーニング代58,000円の請求書を押し付けてきているのである。

ところが、室内クリーニングの特約については、判例(平成16年10月29日東京簡裁)がある。

クリーニング費用の負担についての条項には,単に「・・借主負担とし・・」とする合意があるが,どういう条件のもとで,費用がどのくらいかかるかも不明な内容の契約であるから,明確性に欠け,賃借人に著しく不合理なもので合理性がないと言わざるを得ない。したがって,この条項は,合理的解釈のもとではじめて認められるもの,即ち,賃借人が明渡しに当たって通常求められる掃除やクリーニングをしていない場合にこれを認めるものとし,そのクリーニングの方法,箇所,その費用が相当であるかどうかを総合して決められるものと解される。

ちなみに、この判例における解釈は、消費者契約法ではなく、6月24日の記事で紹介した、「特約が成立する3つの要件」を根拠にしている。

しかし、思考停止の貸主は相変わらず契約文言(と日本人の美徳)をタテにしているわけだが、ここまではっきりと契約文言自体が「著しく不合理」だと言われると、ぐうのねも出ないだろうね。

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2005.06.27

敷金問題と消費者契約法

平成16年12月17日の大阪高裁判決は、高裁レベルで敷金問題において消費者契約法を適用した初めての例である。高裁が支持した下級審判決から判決要旨を引用する。

1 消費者契約法施行前に締結された建物賃貸借契約が同法施行後に当事者の合意により更新された場合,更新後の賃貸借契約には消費者契約法の適用がある。

2 建物賃貸借契約に付された自然損耗及び通常の使用による損耗について賃借人に原状回復義務を負担させる特約は消費者契約法10条により無効である。

ここで触れられている消費者契約法10条は非常に重要な条文なので、これも引用。

10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

私の場合は本契約の締結が平成15年2月なので、消費者契約法施行(平成13年4月1日)後であり、1は問題にはならない。今回重要なのは、2なのであるが、これを判例に即して言うと、

1. 民法上、借主は普通に使用して、使用し終わったままで返せばいいところを、「まっさらな状態」にして返せという特約を結ぶのは、借主の義務を一方的に加重するものである。

2. 借主にしてみれば、

(1)契約を締結するときに、明け渡し時の原状回復費用を予測することは非常に困難であるし、
(2)実際に自然損耗の有無を争おうとした場合は、敷金返還訴訟を起こさざるをえないし、
(3)契約内容に疑問を持ったからといって、契約書の文面を変更させるような交渉力は持っていない、

のだから、このような特約は、情報力及び交渉力に劣る借主の利益を一方的に害する内容である。

日本語を理解している大の大人がハンコ押してるんだから、それはきっちり守ろうよ、というのは、典型的な貸主の抗弁としてありうるが、もともと消費者(借主)は事業主(貸主)に比べて圧倒的に不利な立場にあるんだから、その不公平を法律で保護しようというのが、この消費者契約法の趣旨である。

もちろん、経年変化や通常損耗の原状回復費用を借主が(実質的に)負担するという契約は、「契約自由の原則」から言っても、認められるべきではあるが、それについても、本判例では、一定の要件が示唆されている。

賃貸人は将来の自然損耗等による原状回復費用を予想することは可能であるから,これを賃料に含めて賃料額を決定し,あるいは賃貸借契約締結時に賃貸期間に応じて定額の原状回復費用を定め,その負担を契約条件とすることは可能であり,また,このような方法をとることによって,賃借人は,原状回復費用の高い安いを賃貸借契約を締結するかどうかの判断材料とすることができる。

つまり、

1. 原状回復費用をあらかじめ賃料に織り込んでおく。なので、明け渡し時に請求書を押し付けるのはナシ(でも、これってあらためて書くまでもなく、通常の考え方?)

もしくは、

2. 賃貸期間に応じて定額の原状回復費用を定めておく

ということだが、いずれにせよ、契約時に、将来的に負担する総額をあらかじめ把握して、他の物件の条件とちゃんと比較できる状態でなければいけない、ということなのである。

しばらくお勉強シリーズが続いたので、明日以降は、私の場合の具体的な事例について触れていきたい。

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2005.06.24

特約の有効性

さて、原状回復の基本原則は昨日書いたとおりだが、この基本原則を超えて、借主に特別の負担を課す特約を締結した場合の有効性については、また別途議論が必要になる。

たとえば、極端な話、「通常損耗や経年変化も含めて、すべて借主が回復義務を負う」とか、「(専門業者による)室内クリーニング費用は借主負担とする」といった特約を結んだケースがこれに該当する。特に、室内クリーニングについては、契約書にさりげなく紛れ込んでいることが多いようだ。

これに関しては、判例(伏見簡判H7.7.18等)により、特約が成立する要件が提示されている。

①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること

②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること

③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

これも結構キビしい要件ではあるが、これをさらに補完するものとして、消費者契約法を適用するという判例が提示されはじめている。そして、それを高裁レベルで追認したのが、先述の大阪高裁H16.12.17の判決である。

それについては、また次回。

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2005.06.23

原状回復とは?

昨日のブログで触れた、平成16年12月17日の大阪高裁判決についての説明を加える前に、そもそも原状回復とは何か?というところから整理しておきたい。そうしないと、なぜこの高裁判決が画期的なのか、うまく伝わらないような気がする。

「原状回復」とは、その言葉から素直に伝わってくる印象とは異なり(だからトラブルになるのだが)、入居時のまっさらな状態に戻すことではない。

建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少する【→経年変化】ものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態【→通常損耗】であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていても、そのまま賃貸人に返還すれば足る(「賃貸住宅の原状回復をめぐるトラブル事例とガイドライン」P15)

というのが、判例通説である。

別の言い方をすれば、この「経年変化」と「通常損耗」による価値の減衰を織り込んだうえで家賃を設定しているのだから、これらの回復を借主の負担にするのは、二重どりで大家丸儲けだろう、と言うわけである。

時が経てば、当然、壁紙は日焼けもするだろうし、普通に住んでいたら、カレンダーやポスターぐらいピンで壁に貼るだろうから、それまでを借主の負担とするのは、おかしい、というのが、判例通説の立場である。

なので、借主が負うべき原状回復義務とは、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等ということになる。

ただ、どこまでを「経年変化」「通常損耗」「故意・過失」「善管注意義務違反」ととらえるかについては、個別具体的な問題になるがゆえに、トラブルも多いので、判断基準をブレークダウンしておきましょう、という趣旨で、国土交通省が「原状回復にかかるガイドライン」を公表するに至ったのである。

で、次に問題になるのが、じゃあ、その基本的な考え方と違う契約を結んだら、それは有効かどうか?ということであるが、それについては、長くなるので、また次回。

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